皆さんこんにちは、おっくんです。
去る 2021 年 4 月 13 日に Deno 1.9 がリリースされました。 今回も、リリース内容の中から気になったものをピックアップして、紹介したいと思います。
実行環境
- macOS Catalina 10.15.7
アップデートのやり方
今回は Deno 1.8.3 から Deno 1.9.2 へのアップデートを行います。 (既に 2021 年 4 月 23 日 に Deno 1.9.2 にアップデートされていました。)
アップデートする Deno を導入した時のコマンドは以下の通りです。
curl -fsSL https://deno.land/x/install/install.sh | sh
アップデートは、以下のコマンドで実施しました。
$ deno upgrade # バージョン指定する場合は次のコマンドで実行します。 # deno upgrade --version 1.8.3
ネットワーク環境もあるでしょうが、完了するまでに 20 秒ほどで終わりました。 これまでの更新の度に所要時間を確認していますが、毎回短縮されているように感じます。
方法については、こちらに記載があります。
Deno 1.9
Deno 1.9 での変更事項をDeno 1.9 リリースノートを元に確認します
ネイティブ HTTP/2 Web サーバー の導入
これまでのリリースノートでも、頻繁に紹介に使用されていたstd/httpは、スクリプト化された HTTP サーバーにかかわらず、驚くほど良いレイテンシで稼働しています。
しかし、std/http が対応しているのは HTTP1.1 のみで、HTTP2 には用意に対応できないそうです。
HTTPへの対応 は重要で、ネイティブコードで適切に実装された HTTP サーバーがあります。
したがい、Hyperを採用し、 Deno の HTTP/2 サーバー API を新たに作成しました。
(ここでいうネイティブコードとは Rust のことです。)
単純な hello-world
を返すだけのスループットは、std/httpを使用した時と比べて 48% 向上するそうです。
(https://deno.com/blog/v1.9 Deno 1.9 Release Notes より引用)
この HTTP/2 用の API は現在安定化を進めているもので、実行には--unstable フラグが必要です。
サンプルを動作させてみます。
const body = new TextEncoder().encode("Hello World"); for await (const conn of Deno.listen({ port: 4500 })) { (async () => { for await (const { respondWith } of Deno.serveHttp(conn)) { respondWith(new Response(body)); } })(); }
実行時は、以下のコマンド。
$ deno -V deno 1.9.2 $ deno run --unstable --allow-net http2.ts
ブラウザでlocalhost:4500
アクセスすると、Hello World
と表示されます。
注意すべきなのは、新しい API を使ったからといって HTTP2 になるわけではないという点です。
Hyper が使用しているクレートH2が、HTTP/2 over TCP の実装は目標としていないようなので、今後もこの様相は変わらない可能性が高そうです。
普段使用する有名どころのブラウザは HTTP/2 over TCP に軒並み対応していないので、開発環境でも HTTP2 を体験するには TLS を有効化する必要があります。
加えて次の ALPN の対応をおこなうひつようがあります。
Deno.listenTls での、ALPN サポート
ALPN は Application-Layer Protocol Negotiation の略で、RFC7301で標準化されたアプリケーション層でのプロトコルのネゴシエーションについての仕様です。
前述の通りstd/http
は、http/1.1 のみサポートしていたので不要でしたが、Deno.serveHttp
の導入より HTTP/2 をサポートするために Deno.listenTls
に alpnProtocols
パラメータが追加されました。
リリースノートにある HTTP/2 を完全にサポートする HTTP サーバーの実装例は以下のようになります。
const listener = Deno.listenTls({ port: 443, certFile: "./cert.pem", keyFile: "./key.pem", alpnProtocols: ["h2", "http/1.1"], }); for await (const conn of listener) { handleConn(conn); } async function handleConn(conn: Deno.Conn) { const httpConn = Deno.serveHttp(conn); for await (const { request, respondWith } of httpConn) { respondWith(new Response(`Responding to ${request.url}`)); } }
serde_v8 の導入による、高速なネイティブコード(Rust)呼び出し
Deno は Rust で実装されています。
この 2 つの間のデータのやり取りは、ArrayBuffers をカスタムした「payload」に JSON や flatbuffers、カスタムしたバイナリエンコーディングを埋め込んで使用していました。
しかし、これがパフォーマンスのボトルネックと複雑さの断片化の原因となっていたそうです。
@AaronOが提案した v8 と Rust の間でのデータの受け渡しは直接シリアル化する方が効率的だと提案し、こちらが採用されました。
提案の Issue はこちら Optimize JSON ops: minimize allocs by decoding v8::Value directly
この提案から serde_v8が作られています。 serde_v8 の目的は、v8 と Rust の間に最大効率でオーバーヘッド 0 の全単射を提供することです。
以下のグラフは opcolls(rust 側の呼び出しあたりの、ナノ秒) から特定のクラスの最小コストを計測したものです。
(https://deno.com/blog/v1.9 Deno 1.9 Release Notes より引用)
上記の改善により、Deno の効率は大きく改善し、HTTP ベンチでスループットとレイテンシが向上しました。
(https://deno.com/blog/v1.9 Deno 1.9 Release Notes より引用)
1.8.3 と 1.9.0 の間での比較グラフが示している圧倒的な性能差には、驚く限りです。
fetch API で BlobURL のサポートと改善
blob:
形式の URL のサポートが追加されました。
ブラウザと同じ API を使用可能です。
const blob = new Blob(["Hello World!"]); const url = URL.createObjectURL(blob); console.log(url); // blob:null/7b09af21-03d5-461e-90a3-af329667d0ac const resp = await fetch(url); console.log(await resp.text()); // Hello World! URL.revokeObjectURL(url);
加えて Deno 1.7 からインポートに使用できるようになっていた data:
形式の URL が fetch API でも使用できるようになりました。
実際に dataURL に変化して読み込みを試してみます。
[データ URL への変換]
$ echo Hello World! | base64 SGVsbG8gV29ybGQhCg==
[データ URL の利用]
$ deno Deno 1.9.2 exit using ctrl+d or close() > const resp = await fetch("data:text/plain;base64,SGVsbG8gV29ybGQhCg=="); undefined > console.log(await resp.text()); Hello World! undefined
--allow-env --allow-run がリストを受け付けるように機能拡張
Deno は実行環境のリソースアクセスに対して厳格に権限管理します。
環境変数へのアクセスを許可する --allow-env
と外部プロセスの呼び出しを許可する --allow-run
は、これまで in or nothing 、許可するか・しないかの操作しかできませんでした
deno 1.9 からはこれらの 2 つのオプションがリストを受け付けるようになりました。
動作確認してみます。
$ export DEBUG=true $ export LOG=log/deno.log $ deno run --allow-env=DEBUG https://deno.com/v1.9/env_permissions.ts true error: Uncaught PermissionDenied: Requires env access to "LOG", run again with the --allow-env flag console.log(Deno.env.get("LOG")); ^ at unwrapOpResult (deno:core/core.js:99:13) at Object.opSync (deno:core/core.js:113:12) at Object.getEnv [as get] (deno:runtime/js/30_os.js:61:17) at https://deno.com/v1.9/env_permissions.ts:2:22 # オプションに追加で LOG を与えると実行できる $ deno run --allow-env=DEBUG,LOG https://deno.com/v1.9/env_permissions.ts true log/deno.log
$ deno run --allow-run=deno https://deno.com/v1.9/run_permissions.ts Download https://deno.com/v1.9/run_permissions.ts Check https://deno.com/v1.9/run_permissions.ts Hello from deno! error: Uncaught (in promise) PermissionDenied: Requires run access to "echo", run again with the --allow-run flag const echoProcess = Deno.run({ ^ at unwrapOpResult (deno:core/core.js:99:13) at Object.opSync (deno:core/core.js:113:12) at opRun (deno:runtime/js/40_process.js:20:17) at Object.run (deno:runtime/js/40_process.js:104:17) at https://deno.com/v1.9/run_permissions.ts:6:26 # オプションに追加で echo を与えると実行できる $ deno run --allow-run=deno,echo https://deno.com/v1.9/run_permissions.ts Hello from deno! Hello from echo!
対話的パーミッションプロンプト
Deno では、アクセス許可が不足していると、エラーがスローされて終了します。
--prompt
を実行時に付与することで、権限を付与することができるようになりました。
前項で動作確認した env_permissions.ts の実行で試してみます。
## --allow-env=DEBUG,LOG を付与せずに、--promptを付与する $ deno run --prompt https://deno.com/v1.9/env_permissions.ts ⚠️ ️Deno requests env access to "DEBUG". Grant? [g/d (g = grant, d = deny)] g true ⚠️ ️Deno requests env access to "LOG". Grant? [g/d (g = grant, d = deny)] d error: Uncaught PermissionDenied: Requires env access to "LOG", run again with the --allow-env flag console.log(Deno.env.get("LOG")); ^ at unwrapOpResult (deno:core/core.js:99:13) at Object.opSync (deno:core/core.js:113:12) at Object.getEnv [as get] (deno:runtime/js/30_os.js:61:17) at https://deno.com/v1.9/env_permissions.ts:2:22
将来のリリースでは、デフォルトで ON にすることが検討されているそうです。
関連した Issues が、挙がっていました。
Re-implement "--no-prompt" permission flag
そのほか
前述の内容以外にも、Deno 1.9 では変更が入っています。
- Deno Language Serve の改善
- 新しい API が安定化
- ファイルシステムに関する API が安定化しました。
- Deno.fstat
- Deno.fstatSync
- Deno.ftruncate
- Deno.ftruncateSync
- Deno.File クラスにメソッドが追加
- File.stat
- File.statSync
- File.truncate
- File.truncateSync
- ファイルシステムに関する API が安定化しました。
- いくつかの API が、非推奨になりました。
- Deno.Buffer
- Deno.readAll
- Deno.readAllSync
- Deno.writeAll
- Deno.writeAllSync
- Deno.iter
- Deno.iterSync
新しいデフォルトの TypeScript のオプション
useDefineForClassFields
TypeScript の デフォルトの設定では、useDefineForClassFields
は、false です。Deno 1.9 から true になっており、ユーザーは上書きすることができません。
Deno 1.9 のレポートを仕上げる中で、HTTP/2 の仕様として h2(HTTP/2 over TLS) と h2c(HTTP/2 over TCP) を調べていました。
主要 Web ブラウザが h2 にしか対応していない状況を見ると、開発環境をあたりまえに TLS 化するようになるかもしれませんね。
この記事をまとめている最中の 2021 年 5 月 11 日 にDeno 1.10が公開されました。 実にDeno の展開は早いです。 また Deno 1.10 のレポートもしていきたいと思います。
P.S.
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